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2007年1月18日 (木)

そして、始まる / Salyu『TERMINAL』

Salyuの新しいアルバムが届いた。
アルバムタイトルは『TERMINAL』、全13曲が収録されている。
前作『landmark』から1年半ぶりのリリースである。

ともかく通しで聴いてみた。
1曲目の「トビラ」はインターネット上で先行プレビューみたいにしてPVが配信されていたので、すでに何度かは耳にしていたのだが、アルバムで聴くと印象が違った。
PVではSalyuの特徴的な伸びやかな高音が耳に残ったのだが、実際はバックの演奏の低音域がこの曲を力強く支えていた。
突き抜けるような歌声を大きく受け止めるようなバックの好演奏がこのアルバムを方向付ける。
それは続く「風に乗る船」でも同様で、シングルカットされていた時に聴いた感じとは明らかに異なる存在感を聞き手に与える。
空に続く階段を駆け上がっていくようなSalyuの歌声の下には大きく広がる大地の存在がはっきりと感じられる。

今回、この「風に乗る船」以外にも「Tower」「name」「プラットホーム」と既にシングルで発売された曲がアルバムに収録され、さらに「夜の海 遠い出会いに」も「プラットホーム」のシングルに入っていたし、「to U」はBank Bandのシングルで昨年リリースされていた。
つまり13曲中の6曲は耳に馴染んでいたわけで、果たしてこれらのヴァラエティに富んだ各曲がうまくアルバムに居場所を見つけられるのだろうかと思っていたのだが、杞憂に終わった。
全ての楽曲がこのアルバムのために作られたかのように聞こえる。
それでいて、それぞれの個性は相殺されていないのがすばらしい。

Lily Chou Chouとしてリリースされた『呼吸』のころのサウンドは非常に魅力溢れるものであったが、歌い手の存在感はかげろうのように半透明なものであった。
Salyuとして活動をはじめて、『landmark』ではひとりのシンガーの実像が仄見えてきた。
しかしながら、その姿はどこか儚げで、こわれそうな部分を聞き手に感じさせるものであった。
その後、ライブ・ステージを重ね、メディアに積極的に出て行くようになって、ようやくリリースされた『TERMINAL』にはしっかりと自分の足で大地を踏みしめるひとりの女性として聞き手に歌いかけるSalyuの姿を感じる。

始めに書いたように、アルバムを通して感じられるのは低音域にポイントを置いたサウンド作りであり、聞き手の鼓動に共鳴する心地よさがたまらなく良い。
ラストの曲「to U」は今回Salyuのソロ・ヴァージョンということもあって、8分以上に及ぶ大曲である。
伴奏はピアノのみで始まり、最初のバースが終わってからはチェロがそれに加わる。
つまり、ここでも低音域がさりげなくアルバムのバランスを保っているのだ。
どちらかといえば淡々と歌うSalyuの歌声が心を打つ。

ネット上のSalyuのインタビューを見ると、今回は各楽曲の歌詞が、特に一青窈が書いた詞が歌唱において大きなウエイトを占めていたようである。
しかし、聞き手であるこちらはそんなことにとらわれることなしにSalyuの歌声のみを聴くべきである。
歌詞から彼女が何を感じ、何を表現しようとしているのかは、その歌から感じ取ればよいのだ。
私は、はじめ歌詞カードを見ながら聞いてみたが、すぐに止めてしまった。
Salyuの歌は紙に印刷された活字とは別の次元で私に感情を伝えてくれるからだ。

アルバムタイトルの『TERMINAL』だが、Salyu自身は「交差する」という意味で捉えているようで、それはすごく理解できるのだが、私は「終着駅」の意味だと思った。
それは「終着駅」はある目的においては到達点であり、Salyuにとってデビュー以来のひとつの到達点としてのアルバムであるということ、そしてまた「終着駅」は次の旅立ちへの出発点でもあることだから。
ラストの「to U」が静かに終わったときに、その思いを強く感じた。

ここにあげた曲以外でいちばんストレートに思いが伝わったのが「heartquake」という曲。
2月からのライブではアルバムの全楽曲を歌うとのことなので、本当に楽しみだ。

Metro

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コメント

>さかなさん
楽曲という作品をいかに自分なりに解釈して表現するかということなんでしょうね。
そういう意味ではクラシックの声楽家と同じスタンスなんだと思います。
先日放映された森山直太朗とのデュエットを聴いてあらためてSalyuのすごさを感じました。

http://www.youtube.com/watch?v=A52-PMCxQEY

投稿: Reザジ | 2007年1月18日 (木) 05時52分

さきほど関西ローカルの音楽番組に出演されていました。「トビラ」「プラットホーム」のライヴが聞けましたよっ
が、残念ながら大阪公演はソールドアウトのようです。

「わたしはシンガーソングライターじゃなくボーカリト」であることを何度も強調されているのが印象的でした。

投稿: さかな | 2007年1月18日 (木) 02時44分

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