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2005年12月14日 (水)

美しい島

671BOB DYLANの11枚目のアルバムは1970年の6月に発表された。
例の自伝『CHRONICLES』の中にこのアルバムについて記述された部分があるが、それは恐ろしく簡単なものである。

「わたしは二枚組のアルバムを発表した。思いつくものは何でも壁に投げつけ、壁にくっついたものはすべて発表する。壁にくっつかなかったものをかき集め、それもすべて発表する。そういうアルバムだった。」(訳/菅谷ヘッケル)

このアルバム『SELF PORTRAIT』は発表当時、批評家たちによって酷評された。
前作の『NASHVILLE SKYLINE』では従来と全く異なる鼻にかかった声で甘いカントリーソングを歌うDYLAN に戸惑いつつも、アルバムを支配していたのはDYLANの自作曲であったことから渋々容認してきた批評家たちも、ほとんどの曲がトラディショナルや他人の曲で占められたこのアルバムには極めて冷淡であった。
日本で発売された際も、ライナー・ノーツを書いていた中村とうよう氏はDYLANにあきれて見放したくなったという主旨のことを書かれていた。

この時期DYLANは自らの伝説を破壊することに躍起になっていた。
自身が想像もつかなかった影響力を持ってしまったこと、BOB DYLANという名の虚像が一人歩きをしてしまって本人とのギャップが広がっていくことへの恐怖からであろうか。
『CHRONICLES』にはその辺の事情が回想されているが、書いているのがDYLAN故に鵜呑みにはできない。
しかし、モーターサイクル事故以来、世間から身を隠していたDYLANは『THE BASEMENT TAPES』に見られるようにトラディショナルへの回帰と、より単純な歌への(歌詞も含めて)レイド・バックを志向するようになっていた。

アルバムに収録された24曲はヴァラエティに富んでいる。
インストゥルメンタルあり、ワイト島でのライブあり、カントリーっぽい曲あり,,,,,,
現在ではCD1枚におさまっているこのアルバムを通しで聴いていると、歌好きなひとりのシンガーであるBOB DYLANのまさに”自画像”が浮かび上がってくる。
私にとっても、歌詞カードとにらめっこしないで済む唯一のDYLANのアルバムであり、単純に音楽として楽しめる1枚である。

そんな『SELF PORTRAIT』の中の珠玉の1曲が"BELLE ISLE"である。
美しい娘が自分を残して去ってしまった若者と再会する寓話のような単純な歌詞であるが、流れるようなメロディーにのせて実に誠実にDYLANは歌っている。
登場人物のセリフのやりとりが歌詞にあるのだが、感情を込めすぎることなく淡々と歌われるのでよけいに切ない気持ちにさせられる。
たった2分あまりの短い歌であるが、いつまでも心に残る作品である。
1974年の『PLANET WAVES』の"HAZEL"につながっていく歌だと個人的には思っている。

I've known you're a maid I've loved dearly
  and you've been in my heart all the while;
For me there is no other damsel than
  my bloomin' bright star of Belle Isle.

この曲と、すばらしい"She Belongs to Me"のライブ・ヴァージョンが収録されているだけでも価値のあるアルバムだと思っている。

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