« 珍しい鳥たち | トップページ | ツキと腕 »

2005年10月25日 (火)

ダイヤルYを廻せ!

dyここ数年音楽活動を再開し、ライブハウスを中心にかつてないペースで個性的なパフォーマンスを見せている戸川純だが、現在の中心的なユニットは山本久土とのアコースティック・デュオ”東口トルエンズ”である。
来月には待望のDVD『東口DVD』が発売されるので、未見の人はぜひご覧になると良い。
時代をつかみそこねた世代の叫びを聴き取ることが出来るであろう。

戸川純の過去のCDは数年前に一部復刻され、最近ではITMS(iTunes Music Store)でも扱われるようになったことは以前に書いたとおりである。
復刻されたのは戸川純のソロではなく、YAPOOSの2枚のアルバム『ダダダイズム』『ダイヤルYを廻せ!』である。
なぜ『玉姫様』や『好き好き大好き』などのソロを復刻しなかったのかと嘆かれる人もいるだろうが、戸川純の過去の音楽活動におけるピークがこの2枚のアルバムに凝縮されているからしかたがない。

1991年に発売された『ダイヤルYを廻せ!』はキーボードの吉川洋一郎が在籍していた最後の作品である。
『ヤプーズ計画』『大天使のように』という2枚の前作では実験的な要素を含みながらも、あくまで主役は戸川純というキャラクターであった。
よって、ソロでの活動がYAPOOSというバックバンドを持ったまま延長しているかのような印象であった。
しかし『ダイヤルYを廻せ!』ではYAPOOSはバンドとして完成された音楽を聴かせる。
ここでは戸川純の歌も一つの楽器のような役割を果たしているのである。
変幻自在な彼女の声はここでも冴え渡り、もとより歌唱の上手さは言うまでもないのであるが、あえて抑揚を抑えめにしてあたかも棒読みのように歌うことでバックのサウンドと一体化している。(「3つ数えろ」)

吉川洋一郎の作曲になる「ギルガメッシュ」は後述する「赤い戦車」と並びこのアルバムのハイライトである。
印象的なイントロから始まるこの曲はアコースティックとテクノサウンドが見事に融合して激しくも美しい作品となっている。
戸川純による切ない歌詩も素晴らしく、6分強の曲だがもっとずっと聞いていたい気にさせる。

ギルガメッシュ

毛皮のワンダと罵倒する男(ひと) ギルガメッシュとののしる私
一緒にいるだけでも それだけで拷問の日々
憎悪と嫉妬で醜く化して どこまで堕ちるの
それでも離れられない 何年か前の秋はじめて逢ってから

ギルガメッシュ尊敬してた カエサルの英雄譚
出会った頃信じてた 素敵なとこしか見なかった
ビリティスの愛らしさ オフィーリアはいちず
出会った頃 ああ そうだっけ 自分を好きでいられたっけ

サバトのような暗い晩餐 魔女と暴君よばわりのふたり
腐りきった関係は惰性とよぶほど平和じゃない
憎悪と嫉妬で醜く化して どこまで堕ちるの
それでも離れられない
憎悪と嫉妬で醜く化して 離れられない
輪廻してもう一度 枯れ葉さえ生きてるような秋の日に逢いたい

ビリティスの愛らしさ オフィーリアはいちず
思いやりを当然として 大切にしてたっけ
*ギルガメッシュ尊敬してた カエサルの英雄譚
出会った頃信じてた 愛することしかしなかった
*Repeat

戸川純の作詞・作曲の「ヒステリア」は可憐な小品。
童謡のように歌われるこの歌にはそれでも強い決意が感じられる。

泉水敏郎の作曲した曲はリズミカルでポップなもので、アルバムに適度なアクセントをつけている。
中でも「ミステリアス・ガイ」は続く「ギルガメッシュ」「赤い戦車」が大曲なだけに聴き手にとっては最良の憩いの場となっている。

中原信雄が作曲した4曲は強力な楽曲が並んでいる。
「Men's JUNAN」「供述書によれば」「Fool Girl」「赤い戦車」。
この人の曲には根底に希望がみえるので切ない内容の歌詞でも救われる気になる。
アルバム最後の曲である「赤い戦車」は本当にスケールの大きな曲で、出来るだけ大音量で聞かなければならない。
私の理想はこの曲をオーケストラに演奏させて戸川純が歌うことであったが、今の声量では叶わぬ夢である。
重厚なサウンドに乗せてかつて歌われたことのなかったような歌詞が歌われる。

赤い戦車

水彩画より油絵の凝固した色味にも似た
迷いなく確固たる動かぬ血の色の野望

Red Bloody The Will Is
たえざる意志の保持なり

重ねて同じ色を塗り続け幾たびになろう
しかして立体化した形状の絵すなわち成就

辛酸はだいだいの
It's Not More Red Than My Hard Will

突き上げるあつい想いが描きなぐった血の色の
ペインティングス まるでキューブな自己実現
生きるために生まれたんだと確信する色

重ねて同じ色を塗り続け幾たびになろう
しかして立体化した形状の絵すなわち成就

辛酸はだいだいの
It's Not More Red Than My Hard Will

傷を染める清冽な赤 凝視するほど傷は癒える
ペインティングス 赤く輝く血は源泉
死人じゃないってこれほどまでに確信する色

突き上げるあつい想いが描きなぐった血の色の
ペインティングス まるでキューブな自己実現
生きるために生まれたんだと確信する色

これが『ダイヤルYを廻せ!』である。
今聞き返しても新鮮な衝撃を受ける。
現在の戸川純にもYAPOOSにも当時の音を再現することはできない。

※『ダダダイズム』はまたの機会にでも取り上げてみたいと思う。

|

« 珍しい鳥たち | トップページ | ツキと腕 »

コメント

戸川純さんの歌唱はかつての可憐さが影を潜め、「哀」の表情を見せるようになっています。
件の”諦念プシガンガ”は最近東口トルエンズでも歌われていますが、オリジナルを超えた凄みが加わっているように感じました。
神代作品ぜひ拝見したいものですね。
年内にでも一度伺わせていただきたいと思います。

投稿: Reザジ | 2005年10月26日 (水) 00時08分

戸川純ちゃんが出演した拙作を、先日五郎氏と犬氏にビデオで観てもらったばかりです。
まぼろしの神代辰巳作品を、ザジさんにもいつかご高覧願えれば幸甚です。
彼女の歌は、ここ数年でようやく各社カラオケに登場するようになりました。
♪牛のように豚のように~と歌うと、彼女を知らない同席者たちが異様な関心を示し、お前ら戸川純ちゃんを何と心得ると、一喝してやる旧世代オヤジです。(~_~;)
それにしても、大上瑠利子のナンバーはどうして一曲もカラオケにないのだと…そんな稿を今日はこれから書こうと思っています。

投稿: 桃色吐息楼主 | 2005年10月25日 (火) 08時06分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/63100/6554663

この記事へのトラックバック一覧です: ダイヤルYを廻せ!:

« 珍しい鳥たち | トップページ | ツキと腕 »